土地面積25坪に対し、建築可能な延床面積はわずか20坪弱。南西の角地ということもあり、充分な採光が期待できるものの、人や車の往来も多く、周囲も住宅が建て込んでおり、敷地の持つ良い条件をそのまま住空間に取り込むには幾分障害を感じた。
そこで、道路側からの視線を遮りつつも光と風を取りこむ板塀を設え、敷地いっぱいにデッキを設けることで、限られた面積の中でも最大限に広がりを感じられるようにした。また、各所の開口部においても周辺環境を注意深く観察し、なるべく遠くを見通せる配置とすることで、閉塞感を感じることが無いよう配慮した。
4人家族の住まいでお子様も成人されていることから、個室が3部屋必要となった。20坪弱という限られた面積の中で各室に収納を設けても、それぞれがただの狭い空間になってしまうと考えた。そこで、各室にはあえて収納を設けず、寝るだけの部屋とし、廊下兼ファミリークローゼットという形式をとった。建物の端から端まで見通せ、端と端を明るくし明暗の奥行を作り、壁面全体が収納であるということで、「広い」という意識が働くことを期待した。
外部は掻き落しの左官壁をメインに窓・軒裏・塀に木材を用い、周囲の景観に少しずつ馴染んでいくように心がけた。前面道路が東西に走り、西日がよく射すという場所の特性を捉え、西面は極力開口部を絞り大きな壁面を残した。昼下がりから夕暮れ時にかけ、美しい樹影が壁面に映し出され、この街のささやかなシンボルとなることを願っている。