Taichi Nishishita
Architect & Associates

はじめに

いい家づくりを始めるためにまずしなければならないことは、建主と建築家の間に「共感しあえる関係」を築くことだと考えています。考え方の根底を流れるものにどこか通ずるものがあれば、相乗効果によって、必ず素晴らしい建築を生み出すことができます。まずは私たちの建築に対する想いをご覧いただき、どこか心に響くものがあれば嬉しく思います。

Concept 01

間取りではなく空間で考える

欲しいものは「かたち」そのものではありません。本当に欲しいものは、家族とゆったり過ごすことのできる時間であったり、心地よい室内環境による安心感であったり、形にならないものの中にあります。それはつまり、建主が思い描くこれからの暮らし方そのものでしょう。

間取りはとても大切ですが、あくまで空間を構成する一要素に過ぎないと考えています。空間は高さ関係、窓から見える景色、ものの質感、光など様々な要素が密接に関係を結びながら成り立っています。それらを計画初期から間取りと等価に総合的に捉えることで、調和のとれた豊かな空間が生まれます。

早くから安易に「間取り優先」で考えることなく、理想の暮らしと共にある「空間」のイメージを共に膨らませていきましょう。

Concept 02

家と外構は一体に計画する

家そのものだけでは本当に豊かな暮らしは成り立ちません。私たちは庭や塀などの外構を家づくりのオプションではなく、欠かせないものと捉えています。

たとえほんの小さな庭であっても、日々の暮らしに安らぎや潤いがもたらされ、硬い素材でつくられた建築の輪郭は一気に和らぎます。丁寧に考えられた塀や門扉などは住まい手が外部空間と繋がるための安心感をもたらします。

家と街を何もなしに繋げようとしても、両者は固く閉ざしあい、そこに住まう人も閉鎖的な暮らしを強いられます。両者の中間領域である外構を豊かに計画できれば、家・人・街が緩やかな関係を持ち、暮らしに広がりと奥行が生まれることでしょう。

Concept 03

居心地の良い光と影

子供たちと活動的に過ごしたい時、何かの作業に集中したい時、あるいは病に伏せている時・・・。多様な生活のシーンにおいて「心地よさ」とは絶えず変化していくものです。

住まい手がその都度、自分にとって心地よい居場所を見つけられるよう、隅々まで均一に明るい空間ではなく、「明」から「暗」への振れ幅のある空間をつくりたいと考えています。要所を押さえた開口による「明暗の振れ幅」や過不足のない照明計画は暮らしの中に豊かな奥行をもたらしてくれます。

また、「光」とはそれそのものとして存在するのではなく、光を受ける対象があってこそ現れるものです。よって、光を受ける面やその素材もシンプルで滋味あるもので構成したいと考えています。

Concept 04

長く愛される素材選び

暮らしの器が美しく古びていくように、住み込むほどに味わいの増す素材で作りたいと考えています。

どんなものでも永く使い続けるには多少の手入れが必要です。だからこそ、選んだものに愛着が持てることや経年変化していく姿を美しいと思えるかどうかはとても大切なことです。表面的に綺麗に取り繕われた偽物の素材では、仮に最初は良くても時と共に愛着も薄れていくことでしょう。

なにも高価で立派な素材ばかりを使う必要はありません。大切なのはそれが「本物」であること。自然素材ならではの多少のキズやクセでさえ、思わず愛おしく思えるような、住む人の心に優しさが宿るような空間をつくりたいと思っています。

Concept 05

シンプルかつニュートラル

虚飾のないシンプルな家をつくりたい。

シンプルとは何もしないことではなく、ミニマリズムを追求することでもありません。複雑に絡みあう多様な関係性に秩序を与え、それぞれの魅力を輝かせることだと考えています。

ぶれることのないニュートラルな家をつくりたい。

○○風というような特定のスタイルや刹那的な願望に左右されず、自然の摂理や物事の道理から導き出される、無理なく素直なものをつくりたいと思っています。

シンプルかつニュートラルな家。

それは、どんなに暮らし方が変わっても飽きのこない包容力のある普遍的な家。変化と彩りに富んだ暮らしの背景としての家。

Concept 06

本源的な豊かさと共にある現代的な暮らし

例えば、内とも外とも言えぬような守られた場所で、静かな木漏れ日と心地よいそよ風のなか、草木の香りや揺らぎを感じ、鳥のさえずりを聞きながら、愛する家族と朝食をとる。そんなシーンが当たり前の日常としてある暮らしを思い浮かべてみて下さい。

今日の住宅において、便利で快適な設備機器は多様化を極め、生活になくてはならないものとなっています。もちろんそれらを否定するものではありません。しかし、そればかり頼ってしまっては「本源的な豊かさ」を感じることはできないのではないでしょうか。

深い軒の出が夏の日差しを遮り、冬の日差しを取りこむように、建築そのもので生み出すことのできる心地よさを現代的な暮らしの中にも積極的に取り入れていきたいと考えています。

Concept 07

本当に大切にしたいことを優先する

もしも誰かが泊まりにきたら・・・

ついでに○○も付けておこう・・・

計画初期はつい「もしも」のためのスペースや「ついで」のものを求めてしまいがちです。ただそれらは、本当に大切にしたいことでしょうか?

家づくりには予算、敷地、法律・・・と現実的な制約がたくさんあります。本当に良い家づくりをするためには、色んな条件と照らし合わせながら、要望そのものを精査していくことも大切です。

これまでの暮らしを見直し、これからどのように暮らしていきたいのか、今一度シンプルに考えてみませんか。こういった思考のプロセスを通して、本当に大切にしたいことが見えてくるものです。そして、この発見こそが家づくりの醍醐味だと考えています。

複雑に絡み合う条件を丁寧に紐解き、紡ぎ合わせ、建主自身でさえ気づくことのできなかった、要望の本質を見つけ出していくことを常に心掛けています。

さいごに

これらのコンセプトを元に設計を進めていきますが、できあがる家はもちろんのこと、家づくりという体験そのものも価値あるものとして提供したいと考えています。

建築家との家づくりは建主にもエネルギーが必要です。全くオリジナルのものを作り上げていくため、一つ一つの決断のなかで様々な葛藤と向き合わなければなりません。これが「家を買う」ことと「家をつくる」ことの大きな違いです。

しかし、家は建てておしまいではなく、ずっとそこで暮らしていくためのもの。家づくりのプロセスで得た「暮らしに対する価値観」は、家づくりを終えた後の人生を必ず豊かにしてくれるはずです。